しばらくの桜色
そばからいなくなるひとがいる。たとえば弟。
きみの歩く道をきみの好きな色で塗ってあげられたらいいのにな。
それがおおげさすぎるなら、その道端に花を植えることくらい許してほしい。
きみは花の名前を知らないかもしれないけど。花だってきっと自分に名前があることを知らない。
ほんとにね、春はせわしなくて残酷だね。ばかみたいにいろんな花の粉が風に舞って、たてものの外の視界は淡くてそのくせ色が多くて。
でも春が好きだよ。きらいになりたくないよ。
春だよ!て言ったら、知ってるよ。て返してね。
終わるころにはもう恋われることなく走っていく春が好きだよ。
ゆく春のようにかけらも恋われずに 遠雷 手を振れてよかったね